暦年贈与は廃止されるのですか?相続時精算課税制度とどちらを使うべきですか?
結論から言うと、暦年贈与制度は廃止されず存続されます。
暦年贈与とは
1月1日から12月31日までの1年間(暦年)で、贈与額が110万円以下ならば贈与税がかからないというしくみを用いた贈与方法のことです。
廃止の議論は行わない
暦年贈与が廃止されるのではないか、との報道が数年前から広く行われており注目が集まっていましたが、令和4年9月16日、政府税制調査会は相続税・贈与税に関する専門家会合を設置し、「資産移転の時期の選択により中立的な税制の構築」に向けた議論を始めることを明らかにしました。
この専門家会合を設置するに当たり、中里会長(東京大学名誉教授)は、「近々暦年課税が廃止されるのではないか」あるいは「110万円の基礎控除が使えなくなるのではないか」との懸念に対し、「そのような議論は行わない」と明言しました。
令和5年度の税制改正大綱
令和4年12月16日、令和5年度の税制改正大綱が発表されました。
中でも注目すべきは、「生前贈与加算の加算期間の延長」と「相続時精算課税制度の基礎控除の新設」です。
生前贈与加算の加算期間の延長
- 相続開始前7年間(改正前3年間)の贈与を相続財産に加算して相続税を計算する。
- 改正により延長した4年間の期間に受けた贈与については、総額100万円までは相続財産に加算しない。(年間100万ではなく、4年間で総額100万なので注意)
- 令和6年1月1日以降に行われる贈与から、加算期間延長の対象となる。
相続財産に持ち戻される期間が3年から7年に延長になったことで、暦年贈与によって相続税の節税を考える方は、これまでよりも早いタイミングで贈与を計画し、実行する必要があると言えます。ただし、孫など相続人でない方への贈与は従来どおり持ち戻しの必要がありませんので、改正による影響はありません。
相続時精算課税制度の基礎控除の新設
- 相続時精算課税制度の贈与税の計算において、毎年110万円までの基礎控除が新設されるため、毎年110万円までの贈与であれば、贈与税の申告と納税は不要となる。
- 毎年110万円までの贈与は、特別控除である2,500万円を使わなくてよい。
- 贈与者が死亡した場合には、控除された毎年110万円までの部分は相続開始前7年間のものも含め相続税の計算に加算が不要となる。
- 令和6年1月1日以降に行われる贈与について適用される。
この改正により、今まで相続時精算課税制度のデメリットだった「110万円までの非課税枠が使えない」ことが解消されました。また、控除された毎年110万円までの部分は相続開始前7年間のものも含めて相続財産に加算が不要のため、この点は暦年贈与よりも優れていると言えます。今後、相続時精算課税制度の利用者が大きく増加することが予想されます。
暦年贈与と相続時精算課税制度、どちらを使うべきか
今回の改正により、相続が7年以内に発生するかどうか、が制度選択の大きなポイントとなりました。いつ亡くなるか、それは誰にも分からないことではありますが、7年以内に相続が発生する可能性が高い場合には相続時精算課税制度を選択した方が有利と言えます。
7年以内に相続が発生する可能性が低く、相続税の税率が高い方は暦年贈与も引き続き有効な節税方法の一つです。
また、今回の改正は令和6年1月1日以降に行われる贈与について適用されますから、令和5年中の暦年贈与については7年以内加算の対象外です。
何をいつ贈与したらよいかますます分からなくなった、という方はぜひご相談ください。